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医療情報

オバマ米大統領の医療制度改革
~米国医療の現状に挑む新政権~

アメリカ国旗

今回は、米オバマ大統領の医療制度改革について取り上げてみたいと思います。
道徳的な観点からだけでなく財政的な義務として最優先に医療改革に取り組むと、オバマ大統領はその意気込みを何度も国民に伝えています。ところでなぜそもそも、米国において医療政策が最重要課題だと取り上げられるようになったのでしょうか。背景には、深刻な医療財政の悪化と国民の健康問題が挙げられます。

米国民の家計の最大支出にあたる医療費ですが、国民1人当たりのGDP比で17.6%を占め、これは他の先進諸国の平均7~11%に比べると突出して高く、しかもこのままでは2017年には20%に達すると予測されています1。米国民の個人破産の半数以上はその高額な医療費の負担が原因と言う調査報告もあり2、高騰する医療費の深刻さを伺えます。また、他の先進諸国と比較して米国は最も医療費を捻出している、一方で、米国人の健康は他国の人々より良好だという実証はありません3。そして、1970年の米国における医療費対GDPは7.2%ですから、現時点の17.6%と比べると急速に伸びているにも関らず、上昇に伴う効果の実証は全くみえない状況です4

ところで、今回の医療制度改革の中でも、特に柱となるのが医療保険改革です。日本のように国民皆保険制度のない米国では主に、65歳以上の高齢者(Medicare),貧困者(Medicaid)、貧困家庭の子供(SCHIP)を対象とする公的医療保険が存在します。これら公的保険者の割合は全国民の24%で、民間保険加入者の割合は65%、そして残る16%の約4600万人が無保険者(その約1/3は20歳代の若者)になります5。最近の保険業界の合併や経営統合で選択肢が減っていることや、過去8年間で医療保険料が賃金上昇率の約3.7倍の速さで上昇しているなど6、無保険者はますます増加し、支払いの踏み倒しの一因となっています。また、民間保険のほとんどは雇用保険ですが、雇用先によってカバーしている保険プランの内容や範囲は様々で、特に大企業と中・小規模企業の格差は非常に大きいといわれています。

米国民の健康状態も、医療保険及び医療費の高騰に影響を及ぼしています。驚くべきことに米国民のほぼ半分(1億3300万人)が、最低1つの慢性疾患を抱えているといいます7。米国人の死因の70%を占める慢性疾患ですが、中でも特に多いのは循環器系疾患(心臓病や心疾患)、ガン、糖尿病です(図1)。


図1. 米国の死因順位(2005)
http://www.cdc.gov/NCCdphp/overview_text.htm

これらは医療費負担の大きい疾患でもあり、実際、総医療費2兆ドルの75%は慢性疾患患者に投入されている状況です8。一方で、例えばがん検診や予防接種など、「病気の予防」という側面において医療費はほとんど使われていません9

健全な医療の実現は、このように財政を圧迫する医療費を抑制すると同時に、何千万人に及ぶ無保険者の健康を守ってこそ達成されるものです。改革の手始めとしてオバマ大統領が検討している2010年の予算案をみてみます。

  • 失業者向けの安価な医療保険を一時的に用意する
  • 子供向けの保険プランを拡充する
  • 患者カルテの電子化を5年で実現する
  • 日進月歩で発展する患者に役立つ医療技術を発信し、その普及を促進する
  • 予防と健康管理の促進

また、これらを遂行する上でオバマ大統領は以下の8つの方針を守ると約束しています10

  • 自由に選べる医療サービスを約束する
  • 妥当な価格の医療保険
  • 過度な高額医療費で家計を圧迫させない
  • 予防と健康管理に投資する
  • 医療保険の携行性を守る
  • 国民皆保険を目指す
  • 患者の安全と治療の質の向上
  • 財政の長期的安定

「医療コストの削減」、「医療保険や医師を自由に選択する権利」、「公平で手ごろな医療の確保」等々、これら医療改革の過程で必要な予算は、10年間で$630Billion(63兆)と政府は算出しています11。オバマ大統領は財源の主な捻出方法として以下の案が挙げています。

  • 高額所得所に対する税優遇措置縮小することで、10年間で$3,160億を抑制する。
  • 公的医療保険のMedicare、Medicaidに参加する民間医療保険会社に競争を促すことで$1,750億を抑制する。
  • 処方薬価格を引き下げてジェネリック薬使用を促す仕組みを作る。
  • 病院から退院後のケアを充実し再入院率を引き下げる。
  • 公的保険の診療報酬の不正請求取り締まりを強化する。
  • 公的医療保険の診療報酬を医療の量ではなく医療の質に応じたものに改訂する
  • 医師に対する診療報酬も質に応じたものに改訂する12、等々。

過去、党内外や医療業界間、様々なステークホルダーの利害関係が絡んで何度も頓挫した医療改革ですが、医療のコスト削減、アクセス拡大、質向上という、共通のゴールに一丸となって向かう時は間違いなく迫っており、アメリカ政府はその認識を明確に国民に示しているようです。医療財政の圧迫、地域偏在による医療の質の格差、医師の過重労働・・・。医療問題は、決して米国だけが抱えるものではありません。日本にも医療問題は山積しています。国民一人一人の命に関る医療を、どう立て直すのか。来月7月の議会で法案を可決すべくオバマ政権が率いる医療改革の行方を、世界中が見守っていることでしょう。

  1. http://www.kff.org/insurance/upload/7692_02.pdf 予測はCenters for Medicare and Medicaid Services(CMS)実施
  2. Himmelstein, D, E. Warren, D. Thorne, and S. Woolhander, “Illness and Injury as Contributors to Bankruptcy, “ Health Affairs Web Exclusive W5-63, 02 February, 2005.
  3. http://www.whitehouse.gov/assets/documents/CEA_Health_Care_Report.pdf
  4. 同上
  5. http://www.whitehouse.gov/assets/documents/CEA_Health_Care_Report.pdf
  6. http://www.barackobama.com/pdf/issues/HealthCareFullPlan.pdf
  7. http://www.cdc.gov/NCCdphp/overview.htm#2
  8. 同上
  9. http://www.barackobama.com/pdf/issues/HealthCareFullPlan.pdf, http://www3.brookings.edu/views/papers/200704lambrew.pdf
  10. http://www.whitehouse.gov/omb/fy2010_key_healthcare/ 項目は筆者による翻訳
  11. 同上
  12. 同上 一部http://jp.fujitsu.com/group/fri/downloads/report/research/2009/no336.pdfを参照
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