米ハーバード・メディカル・スクール(HMS)のリチャード・ベリエ准教授や杏林大学医学部第二内科学教室の池田隆徳准教授をはじめとする心電学の世界的な専門家グループはこのほど、長時間体表心電図(ホルター心電図)を利用した非侵襲的な方法での心臓突然死発生リスクの予測に成功、その成果を6月4日(木)から6日(土)に横浜で開催される第13回国際ホルター・ノンインベイシブ心電学会(会長:田邉晃久 東海大学医学部循環器内科 教授)のシンポジウムで発表します。
心臓突然死は心臓病に起因する予期していない突然の病死のことで、急性症状が起こってから1時間以内の短時間で死亡することが多いため「瞬間死」とも言われます。心臓突然死による死亡者数は世界全体では年間約100万人、日本では年間約4~5万人(心疾患の死亡者数は17万人強)※1と言われ、現在年間約数%の割合で伸びています。また、その大部分は心室細動と呼ばれる重度の不整脈が直接の原因となっています。
昨今、自動体外式除細動器(AED:Automated External Defibrillator)を使用して、心室細動の状態に陥った心臓に電気ショックを与えることで、心室細動による心停止状態から蘇生させることが可能になってきましたが、AEDが対象とするのは既に心室細動の状態に陥った人であり、これまで何の兆候もなかった健常者に対して心臓突然死の発生リスクを予測することはほぼ不可能でした。
そのような中、HMSのベリエ准教授や杏林大学の池田准教授、ロシアのフェデラル・メディコ・バイオロジー・エージェンシーのLMマカロフ教授、独ミュンヘン工科大学のジョージ・シュミット教授、北京人民病院のグォー・ジホン ディレクターらは、長年にわたって心臓突然死例数千件の発症前の心電図を解析。T波交互脈(TWA:T-Wave Alternans)※2やハートレートタービュランス(HRT:Heart Rate Turbulence)※3をはじめ、遅延電位(LP:Late Potential)※4、QT間隔延長※5といった不整脈を示す各種波形と心臓突然死発生の相関メカニズムを解明し、心臓突然死を引き起こす条件の抽出に成功、このほど心筋梗塞後および他の心疾患患者に対する、ホルター心電図を利用した非侵襲的な心臓突然死発生リスクの予測を可能にしました。
この予測をこれまでの心臓突然死例に応用したところ、例えばTWAの値が65μV以上の患者は、65μV未満の患者に比べて心臓突然死のリスクが10倍以上高くなるという結果が得られました。その他HRTやLPといった指標も組み合わせ、心臓突然死のリスクの高い患者群を検出することができます。
第13回国際ホルター・ノンインベイシブ心電学会会長の田邉晃久 東海大学医学部循環器内科教授は、「ホルター心電図を利用した心臓突然死発生リスクの予測に成功したことは、心電学の分野における大きな一歩となるだけでなく、世界の医療にとっても飛躍的な進歩となります。今回の発表を契機に、まずは一人でも多くの方に心臓突然死はかなりの確率で予測可能だということを広く知っていただきたいと思います。そして、現在は国内ではどこの施設でも測定可能という状況ではありませんし、検査項目自体も保険適用になっていません。今後より多くの皆さんがもっと身近に心電図の診断を受けられるような体制と、検査の保険適用を目指して、学会として全力で取り組んでいきます。一日も早くこの世の中から心臓突然死という言葉がなくなることを願っています」と述べています。
なお先生方が今回、心臓突然死発生リスクの予測のために調査・解析した指標は、通常のホルター心電図検査の中で測定可能です。本学会附設展示会においても、TWAやHRTの測定可能な長時間心電図解析システム、ルーティン検査と並行してTWAやLPの測定可能な運動負荷心電図検査機器、そしてLPやQTを測定できる安静時心電図検査機などが展示されます。
※1 出典:厚生労働省「人口動態統計」
※2 T波交互脈(TWA:T-Wave Alternans)は、心電図波形上のT波の形状(振幅)が、ABABといったように1拍ごとに交互に変化すること。T波は心室の再分極過程を表すため、TWAの発現は心室の再分極過程に何らかの異常があると考えられている。そのためTWAの検出は心室性致死性不整脈による心臓突然死のリスク層別化に有用
※3 ハートレートタービュランス(HRT:Heart Rate Turbulence)とは、代償性休止期(CP)を伴う心室期外収縮(PVC)が出現した直後の洞調律の変動現象のこと。PVC出現直後の2~3心拍の洞心拍が増加(RR間隔短縮)し、その後の4~8心拍の洞心拍が徐々に低下(RR間隔延長)していく。HRTはCP後のRR短縮量を表すTurbulence Onset(TO%)とそれに続くRR延長の速度Turbulence Slope(TS ms/RR)の2つの指数で表される。心筋梗塞後の患者でTO、TSの両指数が異常を示した場合、心臓突然死を引き起こす可能性が高い
※4 遅延電位(LP:Late Potential)は、何らかの病理的変化によって引き起こされた心筋の局所的興奮伝道によって出現する不規則な微小電位のこと。LPには、心室遅延電位(QRS波LP)と心房遅延電位(P波LP)があり、QRS波LPは、主に重症心室性不整脈の発生や心臓突然死発生リスクの予知などの診断指標に、P波LPは心房細動発生機序の検討や発作性心房細動発生の予知、不整脈治療の評価などに有用
※5 QT間隔延長:心電図QT間隔とは心室筋の活動電位持続時間(APD)の平均的な長さを表しており、その間隔が伸びること(延長)は致死的な不整脈に繋がる可能性がある