検索
ホーム > エッセイコンテスト
GEメディカルシステム(日本) - エッセイコンテスト
第18回 GEヘルスケア・エッセイ大賞

 

乳がん手術から二年が過ぎて思うこと

 
鈴木 智子(すずき ともこ)
 

 マンモグラフィーという言葉を最初に聞いたのは、2000年3月のことだった。年一回受診している人間ドックで、その年初めてオプションで乳腺エコー検査を行った。その結果、マンモグラフィーによる二次検査を勧められたのである。
レントゲン室に入り、男性技師「胸をここにのせてください。」と言われても、申し訳程度にしかない自分の胸を見て、どうしていいものやら悩んでしまった。骨に当たる機械の痛さと男性技師との間に感じる気まずさで、私はもう二度とマンモグラフィーは受診したくないと思った。おまけに検診の結果は、一週間後に再度診察に来なければならなかった。担当の医師はレントゲン写真を前に、「どこがおかしいの。乳腺症でしょう。」といった感じで、検査のときに感じた苦痛や嫌悪感には見合わないような簡単さで処理されてしまった。いったい何のためにこんなに時間を割いて、二次検査をうけたのだろうとはらがたった。自分の健康にまったく何の不安も抱いていなかった私は、怒りの気持ちで病院をあとにしたのである。
翌年の人間ドックで、私は再び乳腺エコーで「ここのしこり、わかりますか。」と右乳房の小さなしこりを指摘され、二次検査を勧められた。昨年のことが思い出され、二度と同じ病院で検査をする気がせず、私は二次検査をずるずると延ばしていた。そんな時、友人にインターネットで検索してみることを勧められた。ちょうど春に自宅のコンピュータでインターネットを利用し始めた私は、「そうか。そんなこともできるのか。」という思いで、コンピュータの前に座ったのである。「乳腺症」という言葉で検索したところ、ある病院のホームページを見つけた。場所も比較的近くて便利だし、技師や看護師は全員女性、病院の内部もとてもおしゃれな造りで心惹かれた。これが、K診療所との出会いである。
私は今思い返しても、インターネットを勧めてくれた友人に感謝の気持ちでいっぱいになる。まだコンピュータの扱いにも不慣れだったにもかかわらず、間単な操作でK診療所に出会うことができた幸運に感謝せずにはいられない。
そこでまたあのマンモグラフィーと出会うこととなるのだが、同じ検査とは思えなかった。K診療所の女性技師は、できるだけ痛みを感じないで安心して検査ができるように心遣いをしてくれた。検査後、レントゲン写真ができるのを待って、診察であった。
診察室には、穏やかな笑顔のK先生がいた。前年の検査のやり方とその診察結果の説明に対する不満を話す私に、先生は「きっと忙しかったのでしょう。」と静かにおっしゃった。私はその瞬間にこの先生なら信頼できると思った。K先生はマンモグラフィーの写真を見ながら、どんなことがわかるのか丁寧に説明してくださり、その後の細胞診の検査も何の不安もなく受けることができた。その頃の私には、自分と乳がんとはまったく無縁のものにしか思えなかったが、検査を受けるからにはその検査の内容とその必要性をきちんと知りたかった。K先生はその気持ちに真摯にこたえてくださった。
細胞診の結果は、良性。定期健診を勧められた。先生も病院もすっかり気に入ってしまった私は、検査に行くのが楽しみだったぐらいである。
半年後受診。マンモグラフィーに変化が見られ、より精密なマンモトームという検査を受けることとなった。これはK診療所ではできないため、対ガン協会に紹介状をいただいた。
結果は、またもや良性。私は自分が乳がんと診断されることはありえないような気持ちになっていた。3ヵ月後にまた検査。部分切除の手術。それでも私は何の不安も持ってなかった。K先生、その後主治医となったH先生に対する信頼は絶対のものであり、任せておけば大丈夫と思った。
しかし今回は切除した部分に多数のがん細胞が見つかった。結果を聞きに行った日も、私はまったく能天気で仕事の途中に休暇をもらい気軽に病院に行った。しかしその後のことは、あまりはっきり覚えていない。治療方法について3つの選択肢が与えられたとき、自分は一番再発の可能性の低い方法を選んだ。K診療所では、保健師がいろいろな相談にのってくれる。その日、涙目の私は保健師のAさんに大変お世話になった。
手術で右乳房を切除。それから何度マンモグラフィーの検査をしただろう。こうして二年が過ぎ、ホルモン療法の注射も終了して、私は元気に仕事を続けている。
初めて受けたマンモグラフィーの検査のときの体験にとらわれて、二度と検査を受けようとしなかったら今頃私はどうなっていたのだろう。初めてマンモグラフィーの検査をしたときに私と同じような経験をしたという人の話をよく聞く。女性の口コミの力はすごいので、そのような話を聞いた人は、マンモグラフィーに最初からマイナスイメージを持ってしまうだろう。これが問題である。幸運の重なりで素晴しい医師と技師の人たちに出会えたからこそ、今の私があるのだ。
新聞に書かれていた「検診率2%」とは、とてもショックである。一度検査を受けて私と同じようにいやな思いをして二度と受けたくないと検診を受けていない人がいるならば、とても残念なことである。女性の技師が配慮を持って、検診に当たってくれる環境が整えば、マンモグラフィーの検診を受ける人は必ず増えると思う。
K診療所の評判は、女性の口コミでどんどん広がり、いつも検診を待つ女性で溢れている。患者にとって混んでいるのは大変ではあるけれど、多くの人が乳がん検診に関心を持ち受診するようになることは、より多くの命を救うことになるのだ。早期発見が何より大切である。
私の職場仲間の中には、乳がんと診断される人が増えている。教員は検診も比較的しっかりと受けており、女性の多い職場なので乳がんと診断される人が多いのだろう。そのような職場環境にない人たちや主婦の人たちが、マンモグラフィー検診ができるように国や県は一刻も早く体制を整えてほしいものだ。機械がそろっても写真を読み解く力を持つ人がいなければ、意味はない。何度も細胞診では良性だったのに、マンモグラフィーやエコーの結果から、私の乳がんを発見してくれた医師たちのような、力を持った専門家をどんどん。養成してほしい。
K診療所のように女性が安心して受診できる病院が、あちらこちらにできてくれることがマンモグラフィーの検診率を上げるのだ。私は今も2ヶ月に一度診察を受け、半年に一度マンモグラフィーとエコーの検診をしている。K先生やH先生と話をするだけで、心が穏やかになる。安心して検診が受けられ、専門的な能力を持った医師と出会える人が、一人でも多くなるように願わずにはいられない。


Essay大賞第18回の結果発表に戻る

 

Privacy Policy Terms of Use © 1997-2006 General Electric Company
本サイトへのリンク及び本サイト内材料のダウンロードに関しましては、プライバシーポリシーをよくお読みの上、同意された方のみご使用出来ます。