審査員講評
「新鮮で意欲的」
一般の部で大賞となった、宮崎眞理子さんのエッセイはなかなか示唆に富んでいる。 メタボについて、単なるデータや数値に目をうばわれることなく、それをこえて、自分で考える力を養うべきだ、という提言は、新鮮で現実的である。 実際、病院の医師でさえ、最近は患者を診るより、パソコンのデータしか見ていないようなことも少なくない。今やデータ氾濫時代、こういうときこそ、このエッセイを多くの人に読んでもらいたいものである。 医療、研究部門の大賞となった越智小枝さんのエッセイも、「自分の体の声を聞く」という一点においてきわめて専門的で説得力がある。 往々にして、メタボという数値だけにとらわれる一般の人々へ、その生活態度にまで言及したところが、新鮮で意欲的である。 |
「切実感のある作品」
今回、最終候補作品となった十七編は、どれもこれも他人事とは思えない切実感があった。出版社に勤めていた頃、昼夜逆の生活で、ストレス解消とばかりに暴飲暴食をつづけてきたから、十七編のメタボ・エッセイは大半が、数値はあくまで参考にして、まじめな自己管理が説かれており、私にはまぶしすぎる重い内容だった。宮崎眞理子さんは父を亡くした一人の主婦の立場から、越智小枝さんは専門医の立場から、真摯に「自分の身体の声に耳を傾ける」ことを説いて、大変説得力があった。立派なメタボの私は、ソクラテスの昔から、自分自身を知ることがいかにむずかしいか、あらためて痛感した。 本多直美さんは現実の医療現場でメタボ健診にあたる医師の悩み、疑問、提言が具体的に説かれていて、貴重な記録になっている。ここでも「健診は合否判定ではなく、今の自分の状態を知り、未来の健康をデザインするきっかけ」と定義されている。そのことを遅ればせながら、私も頭ではなく、体で理解したい、と思った。
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「多くの人の意識に定着した「メタボ」」
いわゆるメタボ健診の導入においては、診断基準のひとつが腹囲を測ることという、そのシンプルさのため、多くの反響をよびました。そのせいか、身近な日常の生活のなかにテーマを見出す作品が多く、動脈硬化に対する意識がさまざまな形で、人々の生活に入り込んでいることをあらためて感じました。 そのなかで、宮崎さんの作品は、単純な数値基準によらず、自らの体に問いかけ、自ら判断する力をつけるという視点が、新鮮でした。また、越智さんについては、過栄養は自律精神の不足が原因でなく、むしろ、頑張り過ぎからであるという指摘は、共感する人も多いのではと感じました。最後に、40才からでいいのかといった本多さんの提言は、健診制度に対する鋭い掘下げでした。 |
「メタボの実態を踏まえた貴重なメッセージ」
今年も数多くの素晴らしい作品に触れることができました。その中でも一般部門大賞に輝かれた宮崎眞理子さんの作品は、メタボ検診の数値を気にするよりも自分自身の健康についてじっくり考える力を身につける事が大事という大変説得力のある文章が心に残りました。これには何事も形ではなく中身が重要という強いメッセージが秘められているように感じました。 また、医療・研究部門大賞を受賞された越智小枝さんの作品も、やはりメタボの数値にこだわるのではなく自分自身の体の状態を1日1回確認し、何か異常があればその日のうちに自ら対策を取り自分の体を大事にする事が最も重要という同様のメッセージを医学的に且つ分かりやすく表現されていたのが印象的でした。 また、審査員特別賞の本多直美さんの作品は、基準値が厳しくなった健診を受けてしまったばかりに大量の新たな患者が作られ、いかにそれが病院側に大きな負担になっているかという普段見落とされがちな面を思い知らされる大切なメッセージが込められていました。 |
「真剣にメタボと向き合って生まれた提言」
今回のテーマは誰にもかなり身近な「メタボ」をとりあげたせいか、どの作品も甲乙つけがたく、また共通した切り口や提案が多かったように感じられました。 そんな中で、一般部門大賞受賞者である宮崎眞理子さんの作品は、「自分の健康についてじっくり”考える力”を身につけていくことこそが、私の決める”新たな基準”である」という強いメッセージが印象的な作品でした。 また、医療・研究部門大賞の越智小枝さんの作品は、医師である筆者自身の体験もからめて、メタボは体全体のレセプター異常であり、精神面も含めて自分と向き合い、体から語られる言葉をじっくりと聞いてあげることが大切という説得力のある提言だったと感じます。 |



作家 渡辺 淳一
元 文藝春秋取締役
GEフィナンシャルサービス(株)
GEヘルスケア・ジャパン
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